2011年10月2日日曜日

それでもEBITDAは大事

以前のエントリーで、EBITDAValuationに用いる際の問題点について記載したが、実務上は、EV/EBITDAは極めて頻繁に用いられるValuationの方法であり、投資家としても必ず参照すべきものと考える。では、なぜ皆この指標を用いるのであろうか?本エントリーでは、その理由につき、考えてみたい。




理由1Marketが用いている

まず一番目の理由は、「皆が用いているから」というものである。

LBOの文脈では、PEファームはEV/EBITDAValuation指標として重視する場合が多い。理論上は、DCFで緻密なValuationをするといっても、結局Exitの前提はなんらかのマルチプルを用いる他なく、特にPEまたはStrategic(戦略的投資家)へのExitのおいてはEV/EBITDAを用いることが多い。LBOファイナンスを提供する金融機関もNet Debt/EBITDA又はTotal Debt/EBITDAをレバレッジの適正額の尺度として用いる。

他方で、上場株投資においても、一部の業界(メディア、テック等)では、EV/EBITDAValuationの方法として重視される。以前記載したとおり、上場株投資では「マーケットが何を織り込んでおり、自分はそれと違う視点を持っているか」が極めて大事となるため、マーケットが注目している数字を理解することは必須である。また、EV/EBITDAが低ければ、PEまたはStrategicの魅力的な買収対象となり得るため、そのような視点で買収対象となり得る割安株をスクリーニングする際にもEV/EBITDAの指標が使われる。


理由2:(LBOにおいて)Covenantの計算上用いられる

LBOの文脈では、上述のNet Debt/EBITDA及び/又はTotal Debt/EBITDAInterest Coverage Ratio等のいわゆるFinancial Covenantの計算上、EBITDAが用いられるのが通常だ。したがって、PEファームにとっては、EBITDAはローン契約遵守のために重要な指標となる。

なお、この点に関連して、EBITDAと同様にCovenantの計算上重要となるのは、DSCRDebt Service Coverage Ratio)の計算にも用いられ、リターンの源泉であるDebt Paydownの金額にも直結するcashflowである。上場株では極めて重視されるNet Incomeは、多額のGoodwillAmortizationが発生するLBOにおいては重視されない。


理由3:同じ業界内で用いる限り弊害は少ない

EBITDAの一番の問題点は、必要な(MaintenanceCapexを無視しているという点であったが、この問題点が顕著に表れるのが、Asset Heavyな業界(財/サービス提供のために多額資産が必要な業界)とAsset Lightな業界(財/サービス提供のために小額の資産のみ必要な業界)を比べる場合だ。逆にいうと、Asset Intensityが似ている業界内でEV/EBITDAを用いれば、必要なCapexの影響は全ての会社に同様に及ぶ(つまり、EV/EBITDA-Capexと比較して、同じ程度だけマルチプルが小さくなる)ため、弊害は少ない。


理由4EV/EBITDA-Capexより容易に取得できる?

最後に、テクニカルな理由だが、上場株投資家が最も用いる情報リソースであるBloombergにおいては、デフォルト設定でEV/EBITDAが計算/表示されるが、EV/EBITDA-Capexはトラックされていない。BloombergからExcelに情報をexportする等して、自己で簡単にEV/EBITDA-Capexを計算できるのであるが、個人的には、このことも理由の一つかも、と思ったりしている(僕が単に怠け者なだけかもしれないが)。



初心者は勘違いしやすい点であるが、Valuationは純粋なScienceではなくArtの面を多分に含んでいる。DCFPERPBREV/EBITDPEG Ratio等、数多くのValuation指標があるが、どれかが唯一正しいというものではなく、ビジネスモデルを理解した上で、合理的な将来の収益性を推測し、かかる推測を前提に、複数の指標をみて、ロジックのみではなく経験も用いて、何が割安/割高かを考えるのが投資判断である。

理論上の問題点はあるものの、EV/EBITDAは極めて有用な指標である。